大判例

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東京高等裁判所 平成6年(行ケ)284号 判決

東京都千代田区神田駿河台4丁目6番地

原告

株式会社日立製作所

同代表者代表取締役

金井務

同訴訟代理人弁理士

稲毛諭

渡邉一郎

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

同指定代理人

山田洋一

松野高尚

関口博

吉野日出夫

及川泰嘉

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が平成3年審判第19243号事件について平成6年10月14日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和62年7月24日、昭和53年6月30日にした特許出願(特願昭53-78675号)を原出願(以下「本件原出願」という。)とし、これに基づく分割出願として、名称を「光情報記録再生装置」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願(特願昭62-183270号)をし、平成5年1月26日特許出願公告(特公平5-6260号)されたが、特許異議の申立てがあり、平成3年9月3日拒絶査定を受けたので、同年10月2日、審判を請求した。特許庁は、この請求を平成3年審判第19243号事件として審理した結果、平成6年10月14日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年11月30日原告に送達された。

2  本願発明の要旨

半導体レーザと、所定情報が記録される記録媒体と、上記半導体レーザから上記記録媒体に向かう光を上記記録媒体上に集光する手段を有する光学系と、上記光学系の一部を構成し、上記半導体レーザから上記記録媒体へ向かう光及び上記記録媒体からの反射光が入射し、入射したそれぞれの光の一部を分離する光分離素子と、上記光分離素子で分離される上記記録媒体からの反射光の一部を受光して上記所定情報を検出する第1の光検出器と、上記光分離素子で分離される上記半導体レーザから上記記録媒体へ向かう光の一部を受光して検出する第2の光検出器と、上記第2の光検出器の検出値を用いて上記半導体レーザの出力を制御する手段とを有することを特徴とする光情報記録再生装置。(別紙図面1参照)

3  審決の理由の要点

(1)  本願発明の要旨は、前項記載のとおりである。

(2)〈1〉  これに対して、特開昭51-29821号公報(以下「引用例1」という。)には、うずまき状または同心円状に映像が凹凸または濃淡の状態で記録されている円盤を半導体レーザによって照射し再生する映像情報再生装置において、該半導体レーザが前後に放射する2つの光のうち、一つを上記映像情報再生用に用い、他の一つをレーザ光強度の検出用に用いレーザ用電源に帰還をかけることによりレーザ光強度を一定にならしめ、映像情報再生出力信号の大きさを一定にすること、第2図において、半導体レーザ(11)レーザ光を前後2方向に放射している光のうち映像信号の再生用に用いられていない方の光を第1の光電変換素子、即ち光検出器(10)で捕らえて電気信号に変え、この信号を前置増幅器(9)で適切なレベルにまで増幅し、電圧比較回路(7)で標準電圧(22)と比較してその差電圧でレーザ電源(8)の出力電流を制御し、周囲温度の変化があった場合でも安定した強度のレーザ光を得ることができ、一定強度のレーザ光を信号読取り用の光源に用いることができることが記載されている。

〈2〉  同じく、「JOURNAL OF THE SMPTE」Vol.83、No.7,554頁~559頁(1974年7月)(以下「引用例2」という。)には、第4図において、ヘリウムネオンレーザチューブのレーザ光源からビデオディスクの記録媒体上に集光する光学系(2つのミラー、拡大レンズ、ビームスプリッタ、4分の1波長板、トラッキング用ミラー、位相補正用ミラー、対物レンズ)と、上記光学系の一部を構成し、レーザから上記記録媒体へ向かう光及び上記記録媒体からの反射光が入射し、入射した光の一部を分離する光分離素子である上記ビームスプリッタと、上記ビームスプリッタで分離反射される上記記録媒体からの反射光の一部を受光するPIN型光検出器とからなる再生光学系、第5図において、該PIN型光検出器はトラッキングサーボとビデオ信号を再生するために使用され、再生ビーム位置信号はレーザパワー出力に直接比例するが、レーザ出力パワーは種々な状況で影響を受けるので、いくつかの補正手段は長期間安定なトラッキングのために要求されること、及びレーザパワー出力変化に対する補正方法として、レーザ光源から出射する光の一部を上記ビームスプリッタで主ビームから分離してシリコン太陽電池の光検出器に照射し、上記太陽電池の出力はレーザパワー補正回路を通して、トラック上の再生ビーム位置に応答するトラッキングサーボを行うサーボアンプでの補正信号として使用されることが記載されている。

〈3〉  また、特開昭49-91655号公報(以下「引用例3」という。)には、光通信における光源には、発光ダイオード、半導体レーザ光励起固体レーザなどが考えられるが、いずれも光出力が温度などの環境によって変化しやすく、また経時変化による光出力の低下が大きいので、これに対処して、光出力を安定に保つためには、発生した光出力を光検出器で検知して、その大きさを一定にするように、光源に供給するパワーを調整する帰還回路を設けること、及び第2図において、半導体レーザなどの光出力発生装置からの光の一部を光分割回路により、情報伝送の主レーザ光とは別に光分割し、該光分割された光を光検出器で検知し、該光検出器での電気信号を該光出力発生装置の電力供給量調節装置へ帰還供給して、光出力発生装置の光出力を常に一定にすることが記載されている。

(3)  本願発明と引用例2に記載されたものとを対比すると、両者は、レーザ光源と、所定情報が記録される記録媒体と、上記レーザから上記記録媒体に向かう光を上記記録媒体上に集光する手段を有する光学系と、上記光学系の一部を構成し、上記レーザ光源から上記記録媒体へ向かう光及び上記記録媒体からの反射光が入射し、入射したそれぞれの光の一部を分離する光分離素子と、上記光分離素子で分離される上記記録媒体からの反射光の一部を受光して上記所定情報を検出する第1の光検出器と、上記光分離素子で分離される上記レーザ光源から上記記録媒体へ向かう光の一部を受光して検出する第2の光検出器とを有する光情報記録再生装置である点で一致しているが、

〈1〉本願発明では、該レーザ光源が半導体レーザであるのに対して引用例2ではヘリウムネオンレーザである点、及び

〈2〉本願発明ではレーザ光源である半導体レーザの出力を安定にするために、光分離素子で分離されるレーザ光源から記録媒体へ向かう光の一部を受光して検出する第2の光検出器の検出出力を半導体レーザの出力制御手段にフィードバックするのに対して、引用例2ではレーザ光源の出力変動に伴うトラッキングサーボ信号の補正を行なうために、光分離素子で分離されるレーザ光源から記録媒体へ向かう光の一部を受光して検出する第2の光検出器へ向かう検出出力を、第1の光検出器出力の一部であるトラッキングサーボ信号のサーボアンプでの補正信号とする点

で相違している。

(4)  相違点について判断する。

〈1〉 相違点〈1〉について

光情報記録再生装置におけるレーザ光源として、半導体レーザを用いることは引用例1により公知であるから、引用例2においてレーザ光源として、ヘリウムネオンレーザに代えて半導体レーザを用いることは、単なる設計的事項にすぎない。

〈2〉 相違点〈2〉について

半導体レーザや固体レーザ等のレーザ光源を用いた光出力発生装置において、レーザ光出力を安定にするために、該光出力発生装置から出射する光の一部を光分割回路により、情報伝送の主レーザ光とは別に光分割し、該光分割された光を光検出器で検知し、該光検出器出力の電気信号を該光出力発生装置のレーザ光源の電力供給量調節装置へ帰還供給して該光出力発生装置の光出力を常に一定にすることは、引用例3により公知であるから、引用例2において、ビデオ信号及びトラッキングサーボ信号へのレーザ光源の出力変動の影響を補正するために使用された、レーザ出力変動を表す太陽電池の第2の光検出器の検出出力を、レーザ光源の出力変動を表すものとして、レーザ光源の電力供給量調節手段へ帰還させて該レーザ光源光出力を安定に制御することは、当業者ならば容易に想到し得る程度のものにすぎない。

〈3〉 そして、本願発明は、上記構成を採ることにより格別の効果を奏するものとも認められない。

(5)  以上のとおりであるから、本願発明は、引用例1ないし3に記載されたものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるかち、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

4  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点(1)は認める。

同(2)のうち、〈1〉は認める。〈2〉のうち、引用例2に「上記太陽電池の出力はレーザパワー補正回路を通して、トラック上の再生ビーム位置に応答するトラッキングサーボを行うサーボアンプでの補正信号として使用されることが記載されている」ことは争い、その余は認める。〈3〉のうち、引用例3には、「光出力を安定に保つためには、発生した光出力を光検出器で検知して、その大きさを一定にするように、光源に供給するパワーを調節する帰還回路を設けること」及び「該光検出器での電気信号を該光出力発生装置の電力供給量調節装置へ帰還供給して、光出力発生装置の光出力を常に一定にすること」が記載されていることは争い、その余は認める。

同(3)のうち、引用例2に記載されたものが「所定情報が記録される記録媒体」を有する光情報「記録」再生装置であるとの点は争い、その余は認める。

同(4)のうち、〈1〉のうち、光情報記録再生装置におけるレーザ光源として、半導体レーザを用いることは引用例1により公知であることは認め、その余は争う。〈2〉のうち、「該光出力発生装置の光出力を常に一定にすることは、引用例3により公知である」こと、「引用例2において、ビデオ信号及びトラッキングサーボ信号へのレーザ光源の出力変動の影響を補正するために使用された、レーザ出力変動を表す太陽電池の第2の光検出器の検出出力を、レーザ光源の出力変動を表すものとして、レーザ光源の電力供給量調節手段へ帰還させて該レーザ光源の光出力を安定に制御することは、当業者ならば容易に想到し得る程度のものにすぎない」ことは争い、その余は認める。〈3〉は争う。

同(5)は争う。

審決は、本願発明の技術事項及び引用例に記載された技術事項の認定を誤った結果、一致点の認定を誤り、かっ、相違点についての判断及び効果についての判断を誤り、進歩性の判断を誤った違法があるから、取り消されるべきである。

(1)  取消事由1(一致点の認定の誤り)

審決は、本願発明と引用例2に記載されたものとは、「所定情報が記録される記録媒体」を有する光情報「記録」再生装置である点で一致すると認定するが、誤りである。

本願発明は、審決も認定するように、光情報「記録再生」装置である。光情報記録装置が当然備えるべき構成や記録原理は、本件原出願当時の当業者にとって常識的事項である。

これに対し、引用例2の第4図及び第5図に記載されたものは、「所定情報が記録される記録媒体」に関する記載がなく、再生専用装置である。

記録を行わないために記録媒体に照射される光束の強度を安定化する必要がなく、半導体レーザの出力自体を制御していない引用例2と本願発明とは、技術思想として相違するといわざるを得ない。

(2)  取消事由2(相違点1についての判断の誤り)

審決は、相違点1について、「引用例2においてレーザ光源として、ヘリウムネオンレーザに代えて半導体レーザを用いることは、単なる設計的事項にすぎない」と判断するが、誤りである。

〈1〉 半導体レーザとガスレーザ(ヘリウムネオンレーザ)は、本件原出願当時、異なる技術的特徴を有するものとして把握されていたため、それぞれの光源を用いたシステムは光源の種類に応じて特化されていた。したがって、当業者が光源のみを単純に置換し得るとの判断は、誤りである。

すなわち、引用例2に示される装置構成は、ヘリウムネオンレーザ光源を前提として構築されている。一方向にしかレーザを発射しないヘリウムネオンレーザでは、前方からの光を分離する以外光出力をモニタできないので、前方からの光を分離検出するのは当然である。

これに対し、両端面のいずれにもレーザ光を発射する半導体レーザを光情報記録再生装置の光源とした場合には、出願当時の技術の流れから考えて、当業者は後方からの光を検出する構成を採用せざるを得ない。半導体レーザは1970年代にその実用化が進められ、小型軽量、低消費電力等の利点がある一方、低出力、出力変動等の問題点も内包していた(甲第6号証)。特開昭50-81695号公報(甲第7号証)は、本件原出願当時の当業者の知識を構成しているが、「半導体レーザの光出力は温度に左右され易いので、・・・光出力を一定に保つ手段が必要である」(2頁左上欄9行ないし12行)とした上、半導体レーザは前後2方向にレーザが出力されることを利用して後方の光をモニタし、半導体レーザの出力を制御している(第1図、第2図及び3頁右上欄6行ないし12行)。ビームスプリッタで光を分離してモニタ用の光を検出することをせず、後側の光をモニタ用の光として検出する検出方法は、小型化できるという半導体レーザの特性を利用し、低出力であるという欠点を補う必要があることから必然的に採用される構成である。引用例1(昭和49年出願)においても、モニタ検出器は、半導体レーザの後方に置いている。さらに、引用例2では、「光検知器や他の電子部品の価格を小さくするだけでなく、より重要なのは、製造行程の間に厳密に配置し、位置決め調整が必要な光学系の数を減らすことである」(甲第4号証訳文1頁下3行)と明記されている。

したがって、半導体レーザを引用例2に適用しようとする当業者は、上記甲第7号証の内容を知識として有しているのであるから、位置決め調整が必要な光学系の数を減らすためには、後方からの出力光を検出するはずである。

〈2〉 被告は、乙第6及び第7号証は引用例2のヘリウムネオンレーザに代えて半導体レーザを用いることが設計事項であることを裏付けるものである旨主張している。

しかし、これらの技術は単なる半導体レーザ光源に関する技術であり、その点において本願発明との関連は引用例3の域を出ないものである。したがって、これらの光源に関する例をもって、上記の点が設計事項であることの根拠とすることはできない。

(3)  取消事由3(相違点2についての判断の誤り)

〈1〉 審決は、「光出力発生装置の光出力を常に一定にすることは、引用例3により公知である」と認定するが、誤りである。

引用例3において制御されているのは、光の強度の絶対値ではなく、パルスの波高である。したがって、引用例3では、光の直流成分のレベルが伝搬するエネルギー自体は制御されていない。

すなわち、引用例3に記載されたものは、光波形に直流成分が存在する場合を考慮していない。すなわち、出力のない状態と出力のある状態とからなるパルス状の信号を前提として、光通信分野において直流成分が理想的にゼロである光パルス波形のパルス高を微分回路や比較回路で検出し、制御することにより、初めて所望の効果を有する回路構成を開示するものである。しかし、実際に半導体レーザを発光させ、その光出力に変動が生じる場合には、直流成分の上にパルス成分が重畳された波形になり、この光出力を引用例3の技術で制御すると、参考図(B)(別紙図面2参照)の波形となる。

〈2〉 さらに、審決は、「引用例2において、ビデオ信号及びトラッキングサーボ信号へのレーザ光源の出力変動の影響を補正するために使用された、レーザ出力変動を表す太陽電池の第2の光検出器の検出出力を、レーザ光源の出力変動を表すものとして、レーザ光源の電力供給量調節手段へ帰還させて該レーザ光源光出力を安定に制御することは、当業者ならば容易に想到し得る程度のものにすぎない」と判断するが、誤りである。

引用例2と引用例3では、技術分野及び目的がともに異なっており、それぞれの本来の目的を達成するための必須の構成要素である帰還すべき対象を、当業者が置換する動機は存在しない。したがって、引用例2と引用例3を組み合わせることによって本願発明が容易に想到し得るとした判断は誤りである。

すなわち、引用例2に記載されたものにおいて光出力により光源からの光出力を帰還制御せず、サーボプリアンプを制御している理由は、引用例2は光出力自体の安定化という目的を有しておらず、再生信号の補償を目的としているために、再生信号を処理するアンプを制御すれば足りること、ヘリウムネオンレーザでは、レーザ出力をレーザの駆動電流によって安定化することは難しいこと、ガスレーザ光源の電源を直接制御することは技術的に不利益が多く、通常の装置においては避けるべきであるとされていることという合理的なものである。

これに対し、引用例3は、光通信技術に関するものであり、その目的は、光により2値の信号を確実に伝送することにある。そして、引用例3は、単なる一般論として光通信に用いる半導体レーザなどの光源を帰還制御することを示すものであり、しかも、前記〈1〉のとおり、光出力自体を制御するものではなく、光パルスの波高を制御するものにすぎないものである。

また、光通信技術である引用例3では、光学系にもともと設けられている光分離素子は存在しない。したがって、引用例2と引用例3の思想を組み合せれば、引用例2の構成に光集積回路などで構成された光分割装置を付加した構成となり、本願発明の構成とは異なるものとなる。

(4)  取消事由4(効果についての判断の誤り)

審決は、「本願発明は、上記の構成を採ることにより格別の効果を奏するものとも認められない」と判断するが、誤りである。

本願発明では、光源である半導体レーザの出力を一定に保つことが可能な光情報記録再生装置が得られるが、出力安定化のために特別な光学素子を設ける必要がなく、しかも光の利用効率を低下させることがないという格別の効果を奏するものである。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

1  請求の原因1ないし3は認めるが、同4は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。

2  反論

(1)  取消事由1について

本願発明が光情報「記録再生」装置であることは、引用例2に記載されたものとの間で、実質的な相違点にならないものであり、審決は、特にその点を摘記するまでもないこととしたにすぎない。

すなわち、引用例2に記載されたものについては、第4図及び第5図は再生光学系及びその制御手段に関するものであるが、乙第8ないし第10号証に例示するように、所定情報が記録される記録媒体に情報信号を記録及び再生する手段を一体的に構成することは、本件出願当時周知の技術にすぎず、引用した光学系を記録にも用いることは当然のことである。

したがって、両者が「所定情報が記録される記録媒体」を有する光情報「記録」再生装置の点で一致するとした審決の認定に誤りはない。

(2)  取消事由2について

〈1〉 前後両面からレーザ光が放射される半導体レーザを用いる場合、レーザ光量を検出するために、光源として用いちれる前面から放射されるレーザ光の一部を用いることも、後面から放射されるレーザ光を用いることも、いずれの構成も本件原出願当時すでに知られていたことにすぎない。

すなわち、乙第6号証(実願昭51-97954号(実開昭和53-17174号)の内容を写したマイクロフィルム。昭和53年2月14日特許庁発行)には、前方及び後方からの光出力1及び3について、「光出力1と3が完全に同じものであればこの従来方式で充分であるが、光出力1と3では出てくるへき開面が異なり、該へき開面の不均一性、不完全性などにより厳密には同じでない。例えば注入軍流に対する光出力、および温度変化に対する光出力増減割合が異なる。勿論、一定にしたいのは信号用に用いる光出力1であり、光出力3ではない。」(2頁17行ないし3頁4行)など、本願発明の課題がすでに知られていたことが記載されているが、それとともに、光源として用いる前方からの光を検出する構成(第2図参照。半導体レーザチップ2の前方から出射する光束の一部がハーフミラー4aにより分割されて受光素子5に向けられている。)が示されている。

また、乙第7号証(実願昭50-53891号(実開昭51-134377号)の内容を写したマイクロフィルム)にも、第1図のものが、半導体レーザ動作温度及び半導体レーザ素子の経時変化に伴う出力変動を補償するために半導体レーザ1の放射光2の一部3を別に設ける光検出器4で受光し、その出力を別に設ける電流制御回路の入力とし、半導体レーザ入力電流に帰還させることにより実現していたのに対し、第2図及び第3図のものは半導体レーザ素子と光感応素子とを同一のステムに固定して取扱いを容易にしたものであるが、第3図のものでも第1図のものと同様にレーザの前面から放射される光を検知に用いているのに対し、第2図のものではレーザ後面から放射される光を検知に用いており、いずれを用いる構成もすでに知られていたことは明らかである。

〈2〉 原告は、乙第6及び第7号証の周知例を単なる半導体レーザ光源に関する技術であると主張するが、もともと原告の主張する半導体レーザの課題は半導体レーザ光源の強度を制御する場合一般に存する問題点に他ならない(甲第7号証は単なる半導体レーザ光源に関するものである。)。また、本願出願当時、半導体レーザを光記録再生装置の光源として用いることが周知であったから、当業者であれば半導体レーザ光源の技術であっても記録再生装置の光源に用い得るとの認識を持つことが明らかである。

〈3〉 したがって、引用例2のヘリウムネオンレーザに代えて半導体レーザを用いることは単なる設計事項にすぎないとした審決の判断に誤りはない。

(3)  取消事由3について

〈1〉 原告は、引用例3に記載のものが制御しているのはパルス波高であり、光出力ではない旨主張する。

しかしながら、引用例3(甲第5号証)には原告の主張するパルスのハイ又はロー状態の変位という概念は記載されておらず、上記概念により説明することは誤りである。引用例3には、「光パルスを発生、または消去する変調方式で光パルスを放射する場合」(1頁右下欄9行ないし11行)と記載されており、この記載からは、出力のない状態と出力のある状態とからなるパルス状の信号となることが明らかである。

また、引用例3における「光出力」の語は、「放出される光のエネルギー」を意味し、相対的なパルスの状態の差ではないことは、前後の記載を見れば明らかである。すなわち、引用例3には、「光通信における光源には、・・・いずれも光出力が温度などの環境によって変化し易く、また経時変化による光出力の低下が大きい。これに対処して、光出力を安定に保つためには、発生した光出力を光検知器で検知して、その大きさを一定にするように、光源に供給するパワーを調節する帰還回路を設ければ良い」(1頁左下欄17行ないし右下欄4行)、「パルス光を放射する光源を安定化する場合も、検知する光出力は、パルスのクロック周期が、光出力の上記変化の時定数よりはるかに小さいので、ある程度の時間で平均化された量で良い」(1頁右下欄4行ないし8行)、「半導体レーザを直接変調するような場合には、光源から発生した光出力そのものが変調されているので・・・単に光出力の時間平均をとるような方法を用いる事はできない」(2頁左上欄1行ないし6行)、「本発明は上述のような困難を避け、信号の影響を受けない光出力を検知する事によって、安定な光出力を発生せしめるような安定化装置を提供する」(2頁左上欄7行ないし10行)、「同期パルスは一般に他の変調信号と無関係に一定の周期を持ち、一定の大きさなので、同期パルスを検出すれば、光源が放射している光出力の大きさを知る事ができる」(2頁右上欄2行ないし6行)、「・・・同期パルスの大きさが、常に一定値を保つように、電力量が調節される。これにより光出力発生装置の光出力が一定に保たれる。」(2頁左下欄13行ないし15行)と記載されている。

〈2〉 原告は、引用例2及び引用例3が技術分野及び目的において相違する旨主張しているが、光通信も光情報記録再生も光学的に情報を伝送する技術分野に属するものである。従来より、通信は空間的伝送、記録再生は時間的伝送と考えられており、デジタル伝送技術として極めて親近性のある技術である。したがって、目的の異なる発明を組み合わせることが容易でないとする論拠は全くない。

また、引用例3(甲第5号証)には、「光通信における光源には、・・・半導体レーザ・・・などが考えられるが、いずれも光出力が温度などの環境によって変化し易く、また経時変化による光出力の低下が大きい。これに対処して、光出力を安定に保つためには、発生した光出力を光検知器で検知して、その大きさを一定にするように、光源に供給するパワーを調節する帰還回路を設ければ良い。」(1頁左下欄17行ないし右下欄4行)と記載され、引用例2(甲第4号証)には、「信号はレーザパワー出力に直接比例していることが明らかである。レーザ出力パワーは多様な状態で影響するので、いくつかの補正手段は長期間安定なトラッキングのために要求される。出射ビームの一部が入射する安い太陽電池からの出力は、トラック上の再生ビーム位置に応答するトラッキンクサーボを行なうサーボプリアンプにおいて、補正信号として使用される。」(訳文2頁2行ないし5行)と記載されているように、いずれも、レーザ光の出力変動に対処することを目的としたものであるから、引用例2と引用例3に記載されたものを組み合わせる動機が存在することは明らかである。

さらに、原告は、引用例2が引用例3のように帰還制御すべき対象を光源自体とする理由はなんら存在しない旨主張する。

しかしながら、例えば甲第7号証に示されるように、半導体レーザのみならず、ガスレーザにおいても光出力の変動があり、この変動の影響を防止するために光源を直接帰還制御することは技術常識であるから、引用例2のようにガスレーザにおいても、当然光出力の変動の影響を防止するために光出力の一部を直接光源に帰還制御し得ることは明らかである。

そして、引用例2は、光出力の変動の影響を防止するためにビームスプリッタにより取り出された光出力の一部をサーボプリアンプに帰還制御するものであり、引用例3は、光出力の変動の影響を防止するために分割して取り出された光出力の一部を直接光源に帰還制御しているものであるから、引用例2において光出力の変動の影響を防止するために引用例3の技術を用いてビームスプリッタにより分割して取り出された光出力の一部を直接光源に帰還制御することは当業者が容易に想到し得たことにすぎないから、上記原告の主張は失当である。

また、半導体レーザ光源を用いた光記録再生装置において、半導体レーザ出力の安定のために半導体レーザ出力により光源を帰還制御することは、この分野において周知の事項にすぎない(乙第9号証6頁右上欄9行ないし右下欄8行、第1図参照)。

〈3〉 原告は、引用例2と引用例3の思想を組み合わせれば、引用例2の構成に光集積回路などで構成された光分割装置を付加した構成となる旨主張する。

しかし、引用例2に記載されたビームスプリッタは、記録媒体からの反射光を受光素子に入射させるために光学系にもともと設けられている光学要素であり、該ビームスプリッタにより分割されるレーザ光の一部をレーザ光出力変動を検出するために光検出器に入射させる構成が示されているのであるから、引用例3に示された半導体レーザに帰還制御する構成を採用した場合に、光分割装置を新たに付加する必要がないことは当業者が直ちに認識し得ることである。

(4)  取消事由4について

引用例2に記載されたものに、引用例1及び引用例3に記載されたものを組み合わせる構成により、レーザ光強度を安定に保持すること、及び特別な光学素子を設ける必要がないこと等本願発明と同等の効果を得ることができることは明らかである。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本願発明の要旨)及び同3(審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

そして、審決の理由の要点(2)(引用例に記載された技術事項の認定)のうち、〈1〉、〈2〉のうち、引用例2に「上記太陽電池の出力はレーザパワー補正回路を通して、トラック上の再生ビーム位置に応答するトラッキングサーボを行うサーボアンプの補正信号として使用されることが記載されている」ことを除く事実、〈3〉のうち、引用例3には、「光出力を安定に保つためには、発生した光出力を光検出器で検知して、その大きさを一定にするように、光源に供給するパワーを調節する帰還回路を設けること」及び「該光検出器での電気信号を該光出力発生装置の電力供給量調節装置へ帰還供給して、光出力発生装置の光出力を常に一定にすること」が記載されていることを除く事実、同(3)のうち、引用例2に記載されたものが「所定情報が記録される記録媒体」を有する光情報「記録」再生装置であるとの点を除く事実は、当事者間に争いがない。

なお、原告は、審決の理由の要点(2)〈2〉のうち、引用例2に「上記太陽電池の出力はレーザパワー補正回路を通して、トラック上の再生ビーム位置に応答するトラッキングサーボを行うサーボアンプの補正信号として使用されることが記載されている」ことを争うが、前記説示のとおり、審決は、相違点2として、「引用例2ではレーザ光源の出力変動に伴うトラッキングサーボ信号の補正を行うために、光分離素子で分離されるレーザ光源から記録媒体へ向かう光の一部を受光して検出する第2の光検出器の検出出力を、第1の光検出器出力の一部であるトラッキングサーボ信号のサーボアンプでの補正信号とする点」を取り上げており、原告の主張する「レーザパワー補償回路」の意味で「レーザパワー補正回路」の用語を使用していると認められるから、この点について審決の引用例2に記載された技術事項の認定に誤りはないと認められる。

2  そこで、原告主張の取消事由の当否について検討する。

(1)  取消事由1について

本願発明は、その発明の要旨(特許請求の範囲第1項)に「半導体レーザと・・・光情報記録再生装置。」と記載されており、光情報記録再生装置に係るものと認められる。

これに対し、甲第4号証によれば、引用例2の第4図及び第5図に記載されたものは、再生光学系及びその制御手段に関するものであると認められる。

しかしながら、乙第8号証(特開昭52-67303号公報)によれば、同公報には、「記録、再生等の動作モードを指定する・・・光学的記録再生装置。」(1頁左下欄5行ないし14行)、「一般に、光学的に書き換え可能な記録材料として・・・などがある。これらの材料は、それに照射する光エネルギーの強さを制御することによって情報の記録、再生、消去が行なわれる。・・・これらの材料を用いた・・・情報を記録、再生する装置の一般的構成を第1図に示す。」(1頁左下欄20行ないし右下欄7行)、「第1図の構成で、情報を記録、再生、消去する場合に、それぞれのモードに応じて・・・光エネルギーを・・・供給する必要がある。」(2頁左上欄2行ないし5行)と記載されていることが認められ、第1図を参照すると、ここには従来の光源及び光学系を共用した光学的記録再生装置の構成図が示されていることが認められる。

乙第9号証(特開昭52-134705号公報)によれば、同公報には、「一般に・・・光学的記録再生装置は・・・光ビームを記録媒体上に収束させた状態であって記録又は再生を行うように構成されている。」(2頁左下欄13行ないし右下欄1行)、「・・・記録再生用の光源及び光学系を共用することが可能となるため、検出機構が簡略化される。」(3頁左上欄3行ないし5行)と記載されていることが認められ、この記載によれば、光学的記録再生装置において光源及び光学系を共用することが示されている。

乙第10号証(特開昭53-39704号公報。昭和53年4月11日出願公開)によれば、同公報には、「本発明は、収束された光ビームを用いて円盤状の記録媒体に情報を高密度で記録し、再生する装置に係り、特に記録、再生時における光路に関する。情報を高密度に記録するには・・・光学的に記録再生する装置がある。」(1頁右下欄9行ないし15行)と記載され、実施例を示す第2図を参照すると、光源及び光学系を共用した記録再生装置が示されていることが認められる。

さらに、前記乙第8号証によれば、同公報には、「第1図の構成で、情報を記録、再生、消去する場合に、それぞれのモードに応じて記録材料の性質にあった光エネルギーを記録円盤に供給する必要がある。」(2頁左上欄2行ないし5行)と記載されていることが認められ、また、乙第11号証(特開昭48-88951号公報)によれば、同公報には、「情報を書き込むには、等速回転する非晶質半導体膜6と半導体レーザ2の間隙を浮揚板4で一定に保ち、適当なパルス幅で半導体レーザ2を発光させ、非晶質半導体膜6を照射し、その温度を軟化点と融解点の範囲に温度上昇後、冷却する。」(2頁右下欄12行ないし17行)、「なお読み出しの光強度は、書き込まれた情報を破壊しないように書き込み時より弱い値に設定される。」(3頁左上欄7行ないし9行)と記載されていることが認められ、記録再生装置において、その光源及び光学系は記録及び再生に際して共用されるが、その動作モードに応じて適切なピームエネルギーを供給する必要があることは周知の事項であると認められる。

これらの事実によれば、光源及び光学系を共用し、記録及び再生手段を一体化した記録再生装置は、本件原出願当時、周知であったと認められ、したがって、引用例2に上記周知事項を加えれば、審決が本願発明と引用例2に記載されたものとは、「所定情報が記録される記録媒体」を有する光情報「記録」再生装置である点で一致するとした審決の認定に誤りはないと認められる。さらに、引用例2に記載されたものと本願発明とが技術思想として異なるものでもないと認められる。

これに反する原告の主張は、上記に説示したところに照らし、採用できない。

したがって、原告主張の取消事由1は理由がない。

(2)  取消事由2について

〈1〉  審決の理由の要点(4)〈1〉のうち、光情報記録再生装置におけるレーザ光源として、半導体レーザを用いることは引用例1により公知であることは当事者間に争いがない。

〈2〉  そして、乙第6号証(実願昭51-97954号(実開昭53-17174号)の内容を写したマイクロフィルム。昭和53年2月14日特許庁発行)によれば、同マイクロフィルムには、「レーザチップ2からはその前方および後方から光出力1および3が出ている・・・光出力1と3が完全に同じものであればこの従来方式で充分であるが、光出力1と3とでは出てくるへき開面が異なり、該へき開面の不均質性、不完全性などにより厳密には同じでない。例えば注入電流に対する光出力、および温度変化に対する光出力増減割合が異なる。勿論、一定にしたいのは信号用に用いる光出力1であり、光出力3ではない。」(2頁10行ないし3頁4行)、「第3図および第4図は本考案の実施例を示し」(4頁3行)、「このような構造にすると、レーザチップ2からの信号用光出力1の周縁のものがホトダイオード5に入射し、該光出力の強さが感知されて信号用光出力の安定用に利用できる。ホトダイオード5により感知される光出力は信号用であり、チップ裏側から出る光出力ではないから、正確に信号用光出力の安定化を図ることができる。」(5頁5行ないし11行)と記載され、乙第7号証(実願昭50-53891号(実開昭51-134377号)の内容を写したマイクロフィルム)によれば、同マイクロフィルムには、実施例1として「本実施例に於いては半導体レーザ6の片面より放出される放射光8を光感応素子7で受光出来る様に、半導体レーザ6と光感応素子を同一のステム9にマウントする。素子提供者は光感応素子7の感度を較正しておくことにより、半導体レーザ6の光出力を光感応素子7の出力で表示する事が出来る」(5頁10行ないし16行)、また、実施例2として「半導体レーザ素子6の共振器の片面より放出される放射光13の一部の放射光14を光感応素子7により受光出来る様に、半導体レーザ素子と同一のステム9に固定する・・・あらかじめ放射光13に対する放射光14の割合を測定しておけば光感応素子7の出力より放射光13の出力を表示することができる」(6頁3行ないし12行)と記載されていることが認められる。これらの記載によれば、光検出器をレーザ光源の前方に置くことが記載されており、半導体レーザの出力光を検出する光検出器は、それをレーザ光源前方及び後方に置くことのいずれも知られていたと認められる。

〈3〉  そうすると、本件原出願当時、それぞれの光源を用いたシステムは光源の種類に応じて特化されており、当業者が光源のみを単純に置換し得るとの判断は誤りであるとの原告の主張は採用できず、引用例2においてレーザ光源として、ヘリウムネオンレーザに代えて半導体レーザを用いることは、単なる設計事項にすぎないとの審決の判断に誤りはないと認められる。

したがって、原告主張の取消事由2は理由がない。

(3)  取消事由3について

〈1〉  審決の理由の要点(4)〈2〉のうち、「該光出力発生装置の光出力を常に一定にすることは、引用例3により公知である」こと、「引用例2において、ビデオ信号及びトラッキングサーボ信号へのレーザ光源の出力変動の影響を補正するために使用された、レーザ出力変動を表す太陽電池の第2の光検出器の検出出力を、レーザ光源の出力変動を表すものとして、レーザ光源の電力供給量調節手段へ帰還させて該レーザ光源の光出力を安定に制御することは、当業者ならば容易に想到し得る程度のものにすぎない」ことを除く事実は、当事者間に争いがない。

〈2〉  甲第5号証によれば、引用例3には「光通信における光源には・・・半導体レーザ・・・などが考えられるが、いずれも光出力が温度などの環境によって変化し易く・・・光出力の低下が大きい。これに対処して、光出力を安定に保つためには、発生した光出力を光検知器で検知して、その大きさを一定にするように、光源に供給するパワーを調整する帰還回路を設ければ良い」(1頁左下欄17行ないし右下欄4行)と記載されていることが認められる。

この記載によれば、引用例3には、レーザ光源の光出力を電力供給装置に帰還して半導体レーザなどの光出力装置の光出力を常に一定にすることか記載されていると認められる。

原告は、引用例3の「光出力」は同期パルスの高さを意味するものであって、光の強度の絶対値を意味する本願発明の「光出力」とは異なると主張する。

しかしながら、光通信技術においては、光パルスの出力レベルのハイとローの状態を明確に区別することが重要であるとしても、半導体レーザの光の強度の絶対値を常に一定に保つことによってもハイとローは区別することが可能であると認められる。さらに、原告の主張は、引用例3が前提としていない光波形に変動する直流成分が存在する場合を前提として引用例3の記載事項の解釈をしようとするものである。よって、この点に関する原告の主張は採用できない。

したがって、「光出力発生装置の光出力を常に一定にすることは、引用例3により公知である」との審決の認定に誤りはない。

〈3〉  甲第3号証によれば、引用例1には「該半導体レーザが前後に放射する2つの光のうち、一つを上記の映像情報再生用に用い、他の一つをレーザ光強度の検出用に用いレーザ用電源に帰還をかけることによりレーザ光強度を一定にならしめ・・・再生出力信号の大きさを一定にしようとするものである」(1頁右下欄1行ないし7行)と記載されていることが認められる。

前記〈1〉に説示した引用例3の技術内容及び上記に説示した引用例1の技術内容からすると、「引用例2において、ビデオ信号及びトラッキングサーボ信号へのレーザ光源の出力変動の影響を補正するために使用された、レーザ出力変動を表す太陽電池の第2の光検出器の検出出力を、レーザ光源の出力変動を表すものとして、レーザ光源の電力供給量調節手段へ帰還させて該レーザ光源の光出力を安定に制御することは、当業者ならば容易に想到し得る程度のものにすぎない」との審決の判断に誤りはないと認められる。

原告は、まず、引用例2においては、光出力自体の安定化という目的を有しておらず、再生信号の補償を目的としているために再生信号を制御すれば足りる等と主張するが、引用例2に周知事項を加えたものは、その光源及び光学系は記録及び再生に際して共用されるが、その動作モードに応じて適切なビームエネルギーを供給する必要があることは周知の事項であることは、前記(1)に説示したとおりであり、原告の上記主張は採用できない。

また、原告は、引用例3は光通信技術に関し、その目的は光により2値の信号を確実に伝送することにあり、引用例3は単なる一般論として光通信に用いる半導体レーザなどの光源を帰還制御することを示すものであると主張する。引用例3が光通信技術に関するものであり、その目的は光により2値信号を確実に伝送することにあるとしても、そのことから引用例2に記載されたものと引用例3に記載されたものがそれらの組合せが容易でないとする程に技術分野を異にしていると解することはできない。また、引用例3は単なる一般論として光通信に用いる半導体レーザなどの光源を帰還制御することを示すものであるとの主張も、光通信及び本願発明の記録再生装置は光を媒体にして信号を伝送する点で技術分野を共通にすると認められることからすると、引用例3に記載されたものを引用例2に組み合わせることが容易ではないことをうかがわせる事情とは認められない。さらに、引用例3に記載されたものが光出力自体を制御するものであることは、前記〈1〉に説示のとおりである。

したがって、原告のこの点に関する主張は採用できない。

さらに、原告は、光通信技術である引用例3では、光学系にもともと設けられている光分離素子は存在しないので、引用例2と引用例3の思想を組み合せても、引用例2の構成に光集積回路などで構成された光分割装置を付加した構成となり、本願発明の構成とは異なるものとなる旨主張する。

しかしながら、前記1(審決の理由の要点(2)〈2〉)に説示のとおり、引用例2には、レーザから記録媒体に向かう光及び記録媒体からの反射光が入射し、入射光の一部を分離する光分離素子であるビームスプリッタが記載されており、このビームスプリッタで分離反射される記録媒体からの反射光の一部を光検出器で受光すること、及びレーザ光源から出射する光の一部をビームスプリッタで主ビームから分離して光検出器で検出することが記載されている。この記載によれば、引用例2には、光学系に設けられている光分離素子を記録媒体からの反射光の分離検出用、及び記録媒体に向かう光の分離検出用に兼用することが示されていると認められる。そうすると、引用例2と引用例3の思想を組み合せれば、引用例2の構成に光集積回路などで構成された光分割装置を付加した構成となり、本願発明の構成とは異なるものとなるとの原告の主張は採用できない。

したがって、原告主張の取消事由3は理由がない。

(4)  取消事由4について

原告は、本願発明は、光源である半導体レーザの出力を一定に保つことが可能な光情報記録再生装置が得られるが、出力安定化のために特別な光学素子を設ける必要がなく、しかも光の利用効率を低下させることがないという格別の効果を奏するものであると主張するが、原告主張の効果は、引用例1ないし3を組み合わせた構成が通常奏する効果であり、格別のものとは認められない。

したがって、原告主張の取消事由4は理由がない。

3  よって、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)

別紙図面1

〈省略〉

別紙図面2

〈省略〉

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